「詐欺に騙されて作った借金も返さないといけないの?」
詐欺の被害者の中にはこのようなことでお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。詐欺師の口車に乗せられて業者から多額の借入をしてしまい、その返済義務だけ残ってしまった場合一体どうしたらいいのでしょうか。
そこでこの記事では、「詐欺で騙されて作ってしまった借金」の諸問題について対処法も含めて解説していきます。
■この記事でわかること
・詐欺の被害に遭って作ってしまった借金にも返済義務があることが分かる
・詐欺師が逮捕されたとしても返金を受けられるとは限らないことが分かる
・早めに弁護士に相談することで被害回復ができる可能性があることが分かる
・借金が返せない場合の3つの借金整理の方法が分かる
詐欺にあってできた借金でも支払い義務はある

詐欺師に騙されて現金などを騙し取られてしまった場合、そのこと自体から発生する経済的損失のみならず、金銭を用立てるために多額の負債を抱えてしまうという状況に陥ってしまう被害者もたくさんいます。
具体的には、結婚・交際を約束した相手を経済的に援助するためにいろいろな相手から高額な借り入れをしたところ結婚詐欺やロマンス詐欺で逃げられた結果、借入先への多額の返済義務だけが残ってしまったというパターンです。
また、ビジネスや投資のノウハウを提供してくれると謳う教材やセミナーの提供を受けるために消費者金融などから借入して購入したものの、悪質な情報商材詐欺だったというパターンもあります。
悪質な詐欺師に騙された被害者の心情としては、「騙された結果作ってしまった借金なのだからチャラにしてほしい」というのが本音でしょう。
しかし、前提として詐欺行為を原因として第三者から借入などをした場合であっても、原則としてその借金の返済義務がなくなることはありません。つまり、あなたは債権者に対して借入金を返済する法的な義務があるということです。
民法には「詐欺…による意思表示は、取り消すことができる」と規定されているため、詐欺の被害に遭った被害者は詐欺師に対する意思表示を取り消すことができます(民法第96条1項参照)。
ただし「詐欺による意思表示の取り消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」とされており(同条3項参照)、この「第三者」とは取り消し前に利害関係を持つことになった取り消しの遡及効の影響を受ける第三者のことをいいます。
そのため取り消し前の第三者については、少なくとも取引上の注意義務違反がない限り詐欺取り消しを主張することができないのです。
詐欺師が逮捕されれば返金してもらえるか

それでは、詐欺師が詐欺罪で捜査機関に逮捕された場合には、騙し取られたお金は返金してもらえるのでしょうか。
まず、詐欺師本人に対しては不法行為責任に基づく損害賠償請求をすることができます。不法行為責任とは「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者」がこれによって生じた損害を賠償する義務を負うというものです(民法第709条参照)。
そして詐欺師本人に対してこの損害賠償請求をするためには、相手方の氏名、住所・居所などが判明している必要があります。さらに相手方の財産を差し押さえて換価して強制的に被害回復を図ろうとすると、相手方の給与債権や所有不動産などの有無を調査する必要もあります。詐欺師が逃げ回っているような場合には上記のような手続きをとることは非常に困難になります。
しかし詐欺師が逮捕された場合には、相手方の氏名や住所などを特定することができます。
ただしこの場合であっても、詐欺師が被害者から騙取した財産を既に費消または隠匿してしまっていれば、すぐに被害回復を実現することはできません。
もっとも逮捕された詐欺師は、被疑者・被告人として刑事罰が科されるかどうかが判断される刑事手続きが進められることになります。そのため、少しでも軽い量刑を得るために被害者との示談・和解を希望する可能性はあります。
しかし、そのような場合でも詐欺師側に十分な資力がない場合には被害者の債務を補填できる十分な賠償金を得られない可能性があります。示談交渉で賠償金支払いについて合意に至るには一定の期間がかかるでしょうし、賠償金は分割での支払いになるケースもあり、被害者は自腹で借金を返済していかなければならない可能性もあります。
以上から詐欺師が逮捕されたからといって、必ずしも被害者が被害を回復することができたり騙し取られた現金を取り返したりできるとは限らないとうことです。
早めに弁護士に相談すれば返金の可能性も

詐欺の被害に遭って騙し取られた現金を絶対に取り返したいという場合には「すぐに弁護士に相談する」ことがポイントです。
詐欺の被害者が被害を回復するための手段はいくつかあります。詐欺の被害者は「振り込め詐欺救済法」や「消費者団体訴訟制度」などを利用することができます。
まず「振り込め詐欺救済法」とは、詐欺師が利用している金融機関口座を凍結してその口座に残された現金を詐欺の被害者に分配する制度です。
次に「消費者団体訴訟制度」とは、内閣総理大臣が認定して消費者団体が消費者のために事業者に訴訟を提起して被害回復を実現するための制度です。
弁護士に相談することでたくさんある制度や手続きの中から、詐欺被害者がとるべき適切な手段を選択して動いてもらうことが可能になります。
また被害者が詐欺師に対して損害賠償請求や返還請求などの支払いを要求していく場合には、前述のように相手方の氏名や住所が分かっている必要があります。
「詐欺師がどこの誰だ変わらない」という場合であっても弁護士に事件を依頼すれば弁護士会照会制度(弁護士法第23条)を活用することで相手方の個人情報が特定できる可能性があります。
例えば詐欺師の携帯電話番号が分かっていれば携帯電話会社に対して番号を契約している者の氏名や住所、請求書送付先、登録金融機関などを照会することができます。金融機関口座から口座名義人の氏名や住所を調べることも可能です。
詐欺被害の日時や被害金額、相手方の氏名・居所が分かれば、「内容証明郵便」などによって金銭支払請求をしていくことになります。
相手方が支払いに素直に応じれば問題ありませんが、即時返金が難しい場合には返金交渉が必要となるケースも多いです。そのようなケースでも弁護士に依頼しておけば交渉業務から和解条項の作成などをすべて一任しておくことができます。

借金を支払えない!そんなときはどうすればいい?

それでは、詐欺師に騙されたことが原因で作ってしまった借金を返せないという場合どうすればいいのでしょうか。前述のように原則としてそのような借り入れ契約も法的には有効な契約となるため、被害者には借金の返済義務が残ってしまいます。
約定のとおりに返済できない場合、被害者には「打つ手なし」なのでしょうか。この場合の対処法として注意するべき点について解説していきます。
放置したり逃げたりしない
まず大切なことは自力では借金が返せないからといって、放置したり逃げたりしてはいけないということです。
被害者としてはお金を騙し取られたうえに、ただただ借金を返済していくだけの義務が残ってしまい、まさに泣きっ面にハチ状態です。しかし返済が苦しいとしても放置・無視してしまうと以下のようなデメリットが発生してしまいます。
・連日のように消費者金融・信販会社から督促の連絡が入る
・支払督促や訴状など裁判所を利用した手続きの通知が送られてくる
・信用情報の事故情報が掲載されてしまう
借金返済義務が残っていても、「時効まで逃げきれれば支払わなくていい」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、債務者の居所が分からなくても訴訟などを起こすことはできるため、債権者は消滅時効期間が経過しないように対処し続けることも可能なのです。
また、長期間にわたり支払いを延滞してしまうと、信用情報に事故情報が記載され今後、新たな借り入れをしたりローンを組んだりしたりすることができないという不利益を被る可能性もあるのです。
したがって、詐欺を原因として作ってしまった借金であっても放置したり逃げたりすることは、被害者に将来に対して大きなデメリットをもたらす結果になるリスクがあります。どうしても借金を返していけないという場合には、以下で解説する任意整理や個人再生などの「債務整理」の手続きを検討すべきでしょう。
債務整理をする
返済が難しい債務を整理するための「債務整理」手続きには、大きく分けて「任意整理」・「個人再生」・「自己破産」の3つの手続きが存在しています。
債務者と債権者の間で任意で話し合いを行い、当事者同士の合意によって借金の整理をしていく手続きが「任意整理」です。
これに対して裁判所に申し立てを行い、裁判所の判断に従い借金の整理をしていく手続きが「個人再生」や「自己破産」です。この2つの手続きは任意での話し合いで借金整理をしていくのではないため、任意整理に対して「法的整理」と言われることもあります。
任意整理:債権者に直接交渉
「任意整理」とは、債権者と直接交渉して借金を整理していく手続きです。具体的には返済期間の延長や今後の利息のカットを求めて話し合いを行うことになります。
被害者の収入、年齢、毎月の支払可能額、債務総額などを考慮して消費者金融や信販会社、金融機関と月々の返済金額の減額や返済の方法などについて話し合いを行います。利息を除いた元本について3年~5年を目途に返済していくという内容で合意を目指して交渉することになります。
両当事者で合意することができれば合意内容にしたがって月々の返済が開始していくことになります。
裁判所を通さずに当事者間で行う借金整理の方法ですので迅速に合意できる可能性があります。自動車や不動産を処分する必要もない点が任意整理のメリットです。
デメリットとしては、当事者の話し合いによる解決であるため債権者が合意しなければ任意整理をすることができません。一般的に事業会社との交渉に慣れているという人は少ないでしょう。そのため一般の私人が相手方会社と任意整理の交渉を行おうとしても望むような結果を得ることは難しい可能性が高いです。
そのため任意整理を希望している方は、任意整理手続きに精通している弁護士に依頼して適切に交渉を行ってもらうことがおすすめです。
個人再生:裁判所に申し立てて借金を減額してもらう
「個人再生」とは、裁判所に再生計画の認可を受けて、借金を5分の1に圧縮してもらい3年~5年で残った債務を返済していく手続きのことです。
再生計画は、最低弁済基準(負債額から算出される金額)と清算価値基準(財産から算出される金額)を比較して、どちらか高い方の金額を基準として作成していくことになります。
個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類が存在しています。個人再生の原則的な手続きは小規模個人再生ですが、将来的に安定した収入があり債務総額が5000万円以下の場合には給与所得者等再生を利用できる場合があります。給与所得者等再生では債権者の同意・不同意を確認する手続きが省略されています。
後述する自己破産では、一定の資産価値のある所有財産については基本的には処分する必要があります。しかし個人再生の場合には、住宅資金特別条項(住宅ローン特則といわれます)を利用すれば、住宅ローンをそのまま返済継続することができ自宅を処分せずに手元に残すこともできます。
また自動車ローンの支払いが終了している場合には、自動車を処分する必要はありません(ローンの支払い途中の場合には、所有権留保が付されているため自動車がローン会社に引き上げられることになります)。
個人再生を行うデメリットとしては信用情報に事故情報が残るという点です。任意整理とは異なり個人再生を行ったことが「官報」に掲載されることになります。官報には手続きの内容や氏名・住所が掲載されることになります。
また、個人再生は将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある人を対象に利用できる制度ですので、安定した収入がない人や失業中で給与を得られていない人は個人再生を行うことは難しくなります。
自己破産:裁判所に申し立てて借金をゼロに
「自己破産」とは、裁判所に申立てを行い借金をゼロにしてもらう手続きです。
裁判所に対して破産申立を行い、裁判所による「免責許可」が下りれば借金全額の支払いが免除されることになります。自己破産の手続きは「破産手続き」と「免責手続き」に分解して理解することができます。
「破産手続き」とは、破産申立人の財産を現金化して各債権者に分配するという手続きのことを指します。
破産手続きによって残ってしまった債務についてその支払いを免除する手続きが「免責手続き」です。裁判所は破産管財人や債権者の意見を聞いたうえで、免責不許可事由がなければ免責許可決定が出されることになります。
自己破産は最終的に債務者の借金をゼロにする手続きであるため、最も減額効果が大きい債務整理手続であるということができます。債務総額がご自身の収入を大きく上回っている方や複数の会社から借入をしてしまい返済見込みが立たないという方は、自己破産を検討してください。
自己破産をするデメリットとしては信用情報に事故情報が残ることになります。また自己破産手続きを行ったことや氏名や住所が「官報」に掲載されることは民事再生手続きと共通です。自己破産の場合、基本的には資産価値のある所有財産については処分する必要があります。
また免責不許可事由に該当する場合には、免責許可を得ることができないため借金をゼロにできません。具体的には「特定の債権者に対して偏った弁済をした場合(偏波弁済)」や「浪費やギャンブルが原因で借金をした場合」、「破産申立にあたり財産があるのに財産隠しをした場合」などです。
まとめ

以上より、詐欺で騙されて作ってしまった借金についても原則として返済義務が残るということを解説しました。
詐欺の加害者から返金を受けることもそう簡単ではありません。そのため犯人が逮捕されたからといっても被害者がその返済義務から解放されるとは限らないのです。
そうであるからといって放置するにはデメリットも大きいため、返済が苦しいという場合には是非とも弁護士に一度相談してください。
個人再生や自己破産の手続きを進めていく場合には、適時・適式な形式で申立書や書面を準備して裁判所に提出していくことが必要となります。弁護士に相談することで、ご自身のケースでとるべき対処法や手続きについても適切にアドバイスを受けることができます。
借金の返済に困っている方は当事務所の弁護士にご相談ください。
