結婚する前提でお付き合いしていた彼が「実は体の関係だけが目的だった」というトラブルはよくあります。
それでは最初から結婚する意思がないのに「騙して肉体関係を持った場合」には、結婚詐欺として何らかの法的な責任を負うことにならないのでしょうか。
この問題について正しく理解するためには、刑法上の「詐欺罪」の成立条件について適切に理解しておく必要があります。
この記事でわかること
・体の関係があった場合に詐欺罪となる条件がわかる
・体の関係があった場合に結婚詐欺となる複数のケースがわかる
・騙されて体の関係を持つに至った具体的な2つの事例が分かる
・結婚詐欺師を見破るための5つのチェック項目がわかる
・実際に結婚詐欺の被害に遭った場合に取るべき4つの対処法が分かる
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体の関係があった場合は結婚詐欺になりうる?

身体の関係、つまり肉体関係があったものの結婚に至らず逃げられたというケースは、結婚詐欺にあたるのでしょうか。これは詐欺罪が成立するための要件の理解が重要となりますので以下で詳述していきます。
金銭など財物の交付がない場合は詐欺罪にはならない
刑法第246条1項には「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する」と規定されています。
そのため詐欺罪が成立するには、①欺く行為、②被害者の錯誤、③財物交付行為、④因果関係が必要となります。
詐欺罪は財産を侵害する犯罪ですので、現金や価値のある財産などの財物が被害者から詐欺師に交付されなければ既遂として成立しません。
そのため、
・相手には最初から結婚する気がなかった
・将来結婚しようと約束したのに破った
・肉体関係をもった
という上記のような事情があったとしても、「財産の交付」がなければ財産に対する侵害がありませんので詐欺罪は成立しないことになるのです。ここで何が「財産の交付」に該当するかという点は問題になりますので後述します。
貞操の違法な侵害として訴えることはできる
財物の交付がないとして詐欺罪が成立しないということは、つまり刑事犯罪が成立しないということです。
しかし相手の行為が違法な権利侵害だといえる場合には、「民事上の責任」として損害賠償請求ができる場合があります。
過去の裁判例には、女性が男性に妻がいることを知りながら肉体関係を結んだ事案について「情交の動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合で、男性側の情交関係を結んだ動機、詐言の内容程度及びその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、女性側における動機に内在する不法の程度に比し、男性側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、貞操等の侵害を理由とする女性の男性に対する慰謝料請求は、許されるものと解すべきである」と判示されています(名古屋高等裁判所昭和59年1月19日判決)。
つまり加害者の側が、いつか現在の妻と別れて被害者と結婚してくれるだろうという期待を抱かせる状態を作り出した場合など、さまざまな事情を考慮して肉体関係を持つに至った主たる責任が加害者側にあるといえる場合には慰謝料請求ができるということです。
この慰謝料とは、権利・法律上の利益を侵害されたことで被った精神的損害を填補するために、被害者から加害者に請求することができる損害賠償請求権のことです(民法第709条参照)。
相手が既婚者の場合は損害賠償を求められる場合もある
相手が既婚者の場合には、逆に相手方配偶者から損害賠償を請求されてしまう可能性もあります。相手方配偶者からすればあなたの方が「不倫の相手」にあたることになります。
そもそも不倫という言葉は民法に規定されていませんが、同様な意味として「不貞な行為」が裁判上の離婚事由として規定されています(民法第770条1項1号参照)。
この「不貞行為」とは配偶者以外の第三者と自由な意思で性交渉をすることを指します。そして婚姻している夫婦は互いに貞操を守る義務を負っていると考えらえれていますので不貞行為は「婚姻共同生活の平和維持」という配偶者の権利・法律上保護に値する利益を侵害することになるのです。
したがって不倫は相手方配偶者の権利を違法に侵害する不法行為に該当しますので、相手方配偶者は不倫相手であるあなたに対して、慰謝料など損害賠償を請求することができます。
以上より相手が既婚者の場合には、あなたが損害賠償を求められる可能性があります。

体の関係ありで結婚詐欺だと認められる場合は?

それでは体の関係・肉体関係があった場合に結婚詐欺が犯罪として認められるのはどのような場合でしょうか。お金を交付していないからといって詐欺罪が成立しないわけではないため以下で解説していきます。
交際期間に高額なお金や商品を渡してしまった場合
刑法上、詐欺罪によって保護されているものは「財物」や「財産上の利益」です。「財物」とは、他人が占有する他人の財物を指し、金銭以外のものも含まれています。
まず、交際期間中に高額な金銭や商品を相手方に渡してしまった場合は典型的な詐欺の交付行為に該当している可能性が高いです。その際、詐欺師はあの手この手を利用して被害者から現金を差し出させようとします。
・仕事で損失を出してしまい、その穴埋めのために損害を填補しなければならない
・家族が事故や病気で入院したが手術代・医療費が高額で準備できない
・事業を始めるにあたって事業資金が不足するので援助して欲しい など
さまざまな理由・事情で相手方にお金が必要となることが頻出します。その際肉体関係を持った相手の場合には恋愛感情を優先してしまい、相手に言われるがままに高額な現金を交付してしまう人が多いのです。
最初は少額から徐々に金額を上げていき最終的には多額の現金をだまし取られるというケースが典型的です。
高額や商品を買わされた場合
直接現金を交付したわけではなないものの、実質的にそれと同様に被害に遭う場合もあります。それは相手方から高額な宝石やネックレスや指輪などの貴金属、高級腕時計や絵画や工芸品などの芸術作品を買わされるケースです。
一般的な人であれば高級品の真贋について判断する能力がありませんので、市場価値の低い粗悪品を売りつけられたとしても分かりません。加えて上記に挙げたものは生活必需品ではないため、交際相手から買わされそうになっている場合には詐欺のカモにされている可能性が高いです。
このような場合でも相手は言葉巧みに高額商品を購入するように誘導してきますので注意が必要です。
例えば「現金の価値が下がったとしても高級品として保有していれば安全」、「いずれ価値が高騰するので今購入しておくのがよい」「運気をあげると評判なので持っておくのがよい」など少し調べれば事実ではないことが分かることがほとんどですが、恋愛関係が絡む場合には相手から言われることをそのまま鵜呑みにしてしまう人が多いというのが結婚詐欺の根深い問題です。
投資への参加を促されお金を支払った場合
株式投資やビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)に投資を勧誘されてお金をだまし取られるケースも頻出しています。
日本人の金融リテラシーは他の先進国の中でも低い傾向が指摘されていますが、投資について正確な知識を有していない人が多い点を詐欺師は利用します。詐欺師は個人事業主や経営者など資産家を装うケースも多く、その場合には被害者は自分よりも投資の知識が豊富であるから信頼できると誤解してしまうのです。
「結婚後の生活資金を作るために投資をしよう」などと誘われて、実際の現金の運用などを交際相手に任せてしまうという手口で現金をだまし取られる事案もあります。また偽の証券サイトに誘導され現金を振り込んだところ引き落とせなくなったり、返金を受けるのに多額の手数料を要求されるという詐欺手口もあります。
実際、定期的に投資資金として相手方に渡していた現金数百万円が、パチンコや他の異性交際の費用に充てられていたという事例も報告されています。
体の関係を持った際に盗難被害に遭っていることもある
身体の関係を持って以降、その交際相手と連絡が取れなくなることがあります。そのような場合には、あなたが知らない間に盗難被害に遭っている可能性もあります。
交際相手を肉体関係を持った際、カバンやスマートフォン、財布、クレジットカード、その他持ち出すことができる貴重品や個人情報が含まれているものを盗まれるという事案も報告されています。
このようなケースは被害者の意思に基づいた詐欺罪ではなく、意思に反する持ち出し行為であるので「窃盗罪」が成立する可能性が高いです。
しかし被害に遭ったことに気づくのに時間がかかった場合にはすでに相手は逃走を図り連絡が取れなくなってしまっているというケースも多いです。
【実際の事例】体の関係を持って騙されたケースについて

身体の関係を持ったものの、そもそも交際相手に結婚する意思がなかったという具体的な事例を紹介しましょう。このようなケースの中には詐欺罪や損害賠償を追及できない事例も多く被害者が負う精神的なダメージは計り知れません。
事例①理想的な男性だったのに結婚の質問をしたら逃げられたケース
この事例は20代の女性が理想的だと思っていた彼氏に騙され逃げられたケースです。
この女性は、結婚願望がありましたが日頃の生活が忙しいこともあって出会いの場がない状態でした。そんなある日、友人のすすめでマッチングアプリを利用して彼氏を探すことにしました。アカウントを作成して利用開始してすぐに、ある男性からアプリ内で連絡が来ました。その男性は女性の好みのタイプだったのでやり取りを繰り返し実際にテートをすることになりました。実際に会ってみると写真と同じ好みのタイプでとても好印象だったため、2度目のデートの際に肉体関係を持つに至りました。男性側から誘われたものの女性側も気があったため喜んで受け入れたのでした。
そしてその後はデートの度に男性に求められるままに応じていた女性でしたが、そのうち性行為のためだけに呼び出されているのではないか、と思うようになりました。
男性との交際から1年が経過しようとしたころ、結婚することを希望して交際を継続してきた女性は男性に対して「いつ結婚する?」と尋ねました。しかし男性側は明確な回答をしないまま、そのときはごまかされてしまいました。
その日以降、男性側と連絡がとれなくなり音信不通になってしまいました。
この男性は性行為のみを目的にマッチングアプリを利用しており最初から結婚する意思はありませんでした。
事例②結婚を考えていた相手に家族がいたケース
この事例は、30代後半の女性が、結婚を真剣に考えて交際していた彼氏に妻も子供もいたことが発覚した事案です。
この女性は20代の若い時に一度結婚しましたがすぐに離婚しその後は長らく独身でした。30代後半になったものの結婚願望はありました。そこで婚活パーティーに参加したところ、同年代の男性と出会いました。出会った男性は見た目もよく、高学歴で一流企業に勤め高収入であるにもかかわらず、仕事にかける時間が長く婚期を逃していたとのことでした。
女性はこの男性を非常に魅力的であると感じ猛アプローチをかけ実際にお付き合いすることになりました。この男性は非常に倹約家で、将来のためにお金を貯金しておきたいと日ごろから口にしていました。そのためデートの費用もいつも女性が負担し高額なプレゼントを贈ったこともありました。
しかし男性は一流企業の高収入のはずであるにもかかわらず経済的な余裕が一切ない様子だったことから、不審に思った女性は男性を問い詰めました。
するとこの男性は実は既婚者で妻がいて、さらに子どももいることが発覚しました。さらに聞かされていた学歴や職歴についてもすべて嘘であったことがわかりました。
その相手結婚詐欺師かも?チェックしておくべき項目

結婚詐欺師にはいくつかの危険な特徴があります。ここでは結婚詐欺師に共通する5つの特徴を紹介しますので、以下のチャック項目に複数該当する人物を交際している方は結婚詐欺被害に注意してください。
SNSやアプリなどネット上で知り合っている
結婚詐欺師は、ツイッターやフェイスブックなどSNSや出会い系サイトやマッチングアプリなど交際相手、結婚相手を探している異性がいる無料で利用できる環境を利用しているケースが多いです。
そのようなツールを利用する理由としてはアカウントを複数作成して別人を装えたり、プロフィールに虚偽を記載することで相手を簡単に信用させることができたりするからです。 SNSやサイト経由で出会った相手が開示している住所や氏名については注意が必要です。金銭の貸し借りをする場合、「借用書」を記載してくれたことで簡単に信頼してしまう人もいますが、相手方の個人情報が虚偽である可能性も高いです。
被害者から現金をだまし取った後はアカウントを削除したり相手をブロックしたりすることで発覚後は一切連絡ができなくなるケースが多いです。
住所や職業など素性がよくわからない場合
相手方の自宅住所や会社名・勤務先が分からず素性が判明しない場合も注意が必要です。詐欺師の場合は、詐欺が発覚したあとに足がつかないように本名や自宅住所、勤務先などの個人情報を開示することを避けたがります。
その一方で被害者の資産状況をリサーチするために相手の職業や収入、自宅マンションなどの個人情報を詳しく聞いてくる場合もあります。
したがって自分のことは隠したがるのに相手のことは根掘り葉掘り聞いてくるような人物は詐欺師の可能性が高いです。
収入が高いやイケメンなど理想的すぎる相手である
芸能人のように容姿が整っている美男・美女や、医師や弁護士、個人事業主など高収入と思われる職業に就いていることをアピールしている人物には注意しましょう。交際相手としてハイスペックで理想的すぎる人物も危険な場合があります。
詐欺師はだましやすい相手を探しています。交際相手に対して理想が高い人や結婚願望が強い人などは相手のスペックだけで簡単に騙されてしまう可能性があります。
詐欺師は相手の理想にぴったり合うような架空の人物を演じますが、被害者にとっては運命の相手に見えてしまうため、しっかりと見極めることが重要になります。
お金が必要になる出来事が頻繁に起こる
お金が必要となる出来事が頻繁に起こる場合にも詐欺を疑いましょう。
詐欺師はさまざまな理由を付けては被害者から現金をだまし取ろうとします。いずれも突発的な事故的な状況で同情を誘うような事態が多いのが特徴です。
被害者としても相手が困っているのを見て「自分が相手を支えてあげなければ」と使命感を持って対応してしまうパターンが多いです。結婚願望が強い被害者の場合には2人で困難を乗り越えたという成功体験になってしまうので何度も金銭を渡してしまう原因にもなってしまいます。
結婚の話は出ているのに具体的な話が進まない
結婚の話が出ているにもかかわらず具体的に話が進まない場合も詐欺の可能性があります。
具体的には将来の結婚の話や、式場選びなど2人だけでできる話は頻繁に会話に出るにもかかわらず、双方の両親への紹介や友人・知人への紹介など第三者が絡む話が全く進まない場合には詐欺の可能性が高いです。
なぜなら結婚詐欺師の目的は被害者から現金をだまし取ることですので最初から結婚する意思はないため、結婚の話を第三者を巻き込む形で前に進めるわけにはいかないのです。

結婚詐欺の被害に遭ったら?解決するためにやるべきこと

結婚詐欺の被害に遭ったと思った場合にはどうすればいいのでしょうか。現金をだまし取られた場合にもこれ以上被害を広げないように動くことが重要です。
それ以上の送金や投資への参加はしない
「結婚詐欺かも」と不審に思った場合、これまで相手に渡していたお金がある場合であってもそれ以上の送金はストップしてください。投資の勧誘を受けてお金を預けていたり証券口座に送金したりしている場合も今すぐ止めてください。
相手にお金を渡さないことでこれ以上被害を広げず最小限で食い止めることができます。
証拠になりそうなものを全て取っておく
結婚詐欺で相手方の責任を追及する場合には証拠が重要になります。結婚詐欺の事案では「だますつもりはなかった」「最初は結婚するつもりがあった」と主張され詐欺の意図を立証するのが非常に難しい事例です。そのため証拠になりそうなものは全て残しておくことが大切です。詐欺の手口を立証するためにLINEやメールのやり取りから金銭の交付が分かる振り込み履歴や引落明細記録、双方の行動を記録したメモや備忘録などを保管しておきましょう。
警察に行って被害届を提出する
結婚詐欺の疑いが濃厚になった場合には、警察に告訴状・被害届を提出することも検討しましょう。捜査機関が刑事事件として立件した場合には捜査が開始され、被疑者が逮捕・起訴される可能性もあります。また被害届を出すことで複数の被害者がいることが明らかになる場合もあります。
そして詐欺師が何者か判明した場合には詐欺師に対して賠償請求できる可能性もあります。
被害回復するなら弁護士に相談してみよう
警察の捜査に平行してまたは独自に詐欺師から被害回復を図ろうとする場合には、弁護士に依頼することがおすすめです。
まず相手方の素性が不明の場合には捜査機関の捜査を待つことになったり、弁護士会照会を利用して相手方の情報開示を請求したりすることが必要となります。いずれにしても弁護士に依頼しておけば適切な方法によって相手方に賠償請求できる可能性があります。
詐欺罪など刑事事件にならない事例でも民事責任を追及することはできます。加害者が任意に賠償に応じる場合には交渉によって被害を一定程度回復できる可能性も残されています。被害回復をする場合には、法律のプロである弁護士に相談することがおすすめです。
まとめ|体の関係だけでは結婚詐欺にならないから要注意

以上、体の関係を持った場合に結婚詐欺が成立するケースについて詳しく解説してきました。詐欺罪が成立するには「財物の交付」が要件となっていますので、肉体関係を持ったというだけでは詐欺には当たらないという点はしっかりと理解しておいてください。
ただ刑事事件として立件できないケースであっても不法行為に基づく損害賠償請求ができる可能性がありますので、結婚詐欺に遭って悩まれている方は是非一度当所の弁護士に相談してください。
あなたのケースで取り得る適切な解決策をご提案できる場合があります。お一人で悩まず法律の専門家である弁護士を頼ってください。
