詐欺師に騙されて銀行振り込みの方法でお金を支払ってしまった場合、被害者は諦めるしかないのでしょうか。
これに関して近年、振り込め詐欺やオレオレ詐欺など銀行振り込みを利用した詐欺被害が頻発しているため、政府も詐欺に遭った被害者が簡易・迅速に被害回復できるような法律を整備し、救済制度も新設されています。
そこでこの記事では、銀行で振り込みを行ってしまった被害者がお金を取り戻すためにとれる方法・制度について分かりやすく解説していきます。
■この記事でわかること
・銀行振り込みで詐欺に遭った場合に、まずとるべき3つ手段がわかる
・詐欺に遭った際に活用できる3つの法律・制度がわかる
・銀行振り込みで詐欺に遭った場合に被害者が気を付けたい3つの注意点がわかる
銀行振込で詐欺にあったら?まずやっておくべきこと

被害者に銀行振り込みをさせる手口の詐欺の被害に遭ったと発覚した場合には、どのような対処法をとればよいのでしょうか。
詐欺に気づいた場合に最初に取るべき3つの手段について解説します。
振り込め詐欺の被害にあった金融機関に相談する
詐欺には様々な手口が存在しています。電話や書面を利用して家族や公共機関の職員などに扮して、現金を騙し取る詐欺が横行しています。そのような詐欺の中には特定の口座に送金することを指示するタイプの詐欺が多く、振り込め詐欺や還付金詐欺、オレオレ詐欺などと呼ばれて報道や警察からも注意喚起がなされています。
振り込みの方法による詐欺に遭ったと気づいた場合には、まずは振り込み先口座がある金融機関・銀行に連絡を入れましょう。
ここで注意が必要なのは連絡を入れる金融機関はあなたが振り込みに利用した振り込み元の金融機関ではなく、相手方が指定してきた振り込み先の金融機関に連絡するということです。
なぜならケースによっては、救済制度を活用することで振り込み先の口座からお金を取り戻すことができる場合があるからです。
振り込み先口座がある金融機関の連絡先については、当該金融機関のウェブサイトに相談窓口やお問い合わせ先電話番号が記載されているはずです。
また銀行の場合には、「全国銀行協会」のホームページには「金融犯罪の被害に遭った場合のご相談・連絡先」というページに、振り込め詐欺等の被害を受けた場合の振り込み先銀行の電話連絡先や受付時間帯などが一覧として掲載されています。
証拠を持って警察に行き被害届などを出す
銀行への連絡と並行して、詐欺の被害に遭った場合には直ちに警察に通報してください。
まだ詐欺かどうかが判然としないものの不安を感じているという段階でも警察に相談することはできます。
犯罪を未然に防止するための相談窓口として「相談窓口専用ダイヤル」として「#9110」が設置されています。
この番号にダイヤルすると地域を管轄する警察署につながり詐欺かどうか、今度どうすればよいのかについて電話相談することもできます。
信頼できる弁護士に相談しておく
詐欺に遭って騙し取られたお金を取り戻したい場合には、信頼できる弁護士にできるだけ早く相談しておくことも重要です。
基本的に警察などの捜査機関は、犯人に刑事罰を科せるかどうかという刑事手続きを進める主体ではありますが、民事の問題に関しては積極的には介入してきません。
そのため犯人が逮捕されて刑事裁判にかけられてとしても、騙し取られた現金が被害者のもとに戻ってくるわけではありません。
現金を取り戻すには、救済制度を利用したり加害者に対して支払い請求をしていく必要があります。
銀行振り込みを利用した詐欺の被害に遭った場合には被害者が利用できる手続き・制度には「振り込め詐欺救済法」や「被害回復給付金支給制度」、「消費者団体訴訟制度」など複数の選択肢があり得ます。
そして一般的には詐欺の被害者は法律の素人で救済制度や手続きの流れについてはまったく知識を有していないケースがほとんどでしょう。
被害回復について一人で対処しようとするとその制度について調べて正確に理解しておく必要がありますが、被害者の方がそのような時間やコストをかけて手続きをスムーズに進めていくのは非常にハードルが高いでしょう。
手続きに時間がかかったために時間切れとなったり既に詐欺師にお金が引き落とされて取り戻せなかったりしては、詐欺被害者救済のために制度が存在している意味がなくなってしまいます。
そこで詐欺事件の解決に精通した弁護士に依頼しておけば、たくさんある制度の中から依頼者がとるべき最も適切な手段を選んでくれ、書面の作成や証拠の収集についても適切にアドバイスを受けながら進めていくことができます。
弁護士は依頼者の代理人となって手続きを進めていくことになりますので、依頼者は弁護士に手続きの代行を一任して連絡を待っていればよいのです。

詐欺にあった場合に活用できる法律とその方法について

詐欺に遭った場合には、被害者はどのような手続きをとることができるのでしょうか。詐欺被害者が活用できる法律や制度はいくつか存在していますので、以下でそれぞれ詳しく解説していきましょう。
「振り込め詐欺救済法」は犯人の口座凍結ができる
銀行口座に振り込む方法で詐欺の被害に遭った場合には「振り込め詐欺救済法」に規定されている制度を利用できる可能性があります。「振り込め詐欺救済法」は、正式には「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払い等に関する法律」といわれる法律の略称です。
この制度は、詐欺師が悪用している預金口座の取引を停止して、その預金口座に残った現金を被害者に分配するという制度です。
この救済制度の対象となるのは、オレオレ詐欺や還付金詐欺などの振り込め詐欺のみならず、ヤミ金融詐欺やネット通販詐欺、未公開株詐欺などに騙されて銀行振り込みをしてしまった人も対象とされています。
①振込先口座がある金融機関に連絡する
銀行口座を悪用した手口によって現金を騙し取られた場合には、まずは振り込み先の預金口座を凍結することが大切です。そのために振り込み先口座がある金融機関の窓口にできるだけ早く電話連絡する必要があります。
口座が詐欺に悪用された疑いがあると銀行が判断した場合には、その口座は凍結されて引落などができなくなります。
銀行に連絡する際には、各銀行のホームページに相談窓口の連絡先や詐欺被害者専用のホットラインなどが用意されている場合がありますので確認してください。
連絡をする際に注意が必要な点は、振り込みを依頼した銀行ではなく、相手から指定された振り込み先の銀行に連絡することです。なぜなら、口座を利用した取引をストップして引き出されないようにしなければならないのは振り込み先の銀行だからです。
銀行に連絡する際には、「詐欺の被害を受けて、そちらの銀行(振込先)の口座に資金を振り込んでしまった」と適切に伝えてください。
②証拠を持って警察に被害届を提出する
銀行への連絡と同時に警察に被害を申告してください。
警察に被害を申告する際には、証拠を持って被害届や告訴状を作成して事件として受理してもらうことが重要です。警察に通報する際には110番か警察本部、所轄の警察署に電話連絡を入れて被害届を出したい旨を伝える必要があります。
警察に連絡する際には、詐欺の被害に遭ったことが分かる証拠をできるだけ持参して被害届・告訴状などを作成して提出する必要があります。具体的には、相手方とのやり取りの詳細を記録したメールやSNSの画面、電話や直接会話した際の録音データ、振り込みを指定された口座の口座番号や名義人などの情報が重要な証拠となります。
捜査機関が事件として立件した場合には捜査が開始され、詐欺の犯人が逮捕される場合もあります。
また金融機関が当該口座が犯罪に利用されたか否かについては、捜査機関から預金口座が不正に利用されたという情報提供やその情報提供に基づく調査結果、名義人の所在などの調査結果などを考慮して判断することになります。
したがって、犯人逮捕のための捜査のみならず騙し取られたお金を取り戻すためにも警察にはできるだけ早く通報することが重要となります。
③口座の凍結を確認して申請手続きを行う
捜査機関から預金口座の不正利用に関する情報提供や捜査機関からの情報に基づく調査結果などに基づき、銀行口座が詐欺に利用されていると判断した場合、銀行は当該口座の凍結を行います。
凍結した口座に1000円以上のお金が残っており、凍結された口座の名義人が一定期間に権利の主張をしなかった場合には、返金申込みのための手続きに入ります。
被害者が銀行に事前に被害報告をしている場合には、返金手続きが始まったことを連絡してくれる場合ほとんどでしょう。また、預金保険機構のホームページに分配金支払いのための手続きが開始したことを周知しますので、ウェブサイトからもチェックすることができます。
この周知にしたがって詐欺の被害者は分配金の支払いについて申請をすることになります。
口座凍結から分配金の支払い手続きが開始するまでは数か月以上かかることになりますので、お金が実際に戻ってくるまでには相当期間が経過するということを理解しておく必要があります。
④申請書を提出して返金を待つ
被害者は申請期間中に金融機関に分配金の支払いを求める申請書を提出する必要があります。
申請期間としては運用上90日の申請期間が設けられています。申請期間中に「被害回復分配金支払申請書」に必要事項を記入して、本人確認書類や騙されて振り込んだ際の振込明細などの疎明資料と一緒に、振り込み先金融機関に申請書を提出することになります。
そして申請書に記載した返金口座に分配金が支払われることになります。
ただし、この制度は凍結された口座に残された現金を被害者全員で分け合うという仕組みです。
したがって既に犯人によって引き落とされてしまっている場合や、被害者全員分の被害金額を補填するのに十分な現金が残っていない場合には、被害に遭った全額について取り戻すことはできないということになります。
「被害回復給付金支給制度」は犯人の財産から資金調達できる
「振り込め詐欺救済法」の制度を利用して被害回復をするためには、凍結した口座の中に預金がなければなりません。詐欺師の手元にお金があるのに急いで口座からお金を引き出してしまったからといってそれを取り戻せないのは正義に反する結果になるでしょう。
そこで、振り込め詐欺救済法を利用できなかった場合であっても、「被害回復給付金支給制度」を利用できる場合があります。
この制度は、刑事手続きにより有罪判決を受けた加害者が得た財産を没収して、金銭にかえて被害者に支給することで被害回復を図るものです。
この場合、刑事裁判手続きにより給付金支給の有無が決定されることになるため、1年以上の時間がかかる可能性もあります。事件によっては犯人逮捕から裁判が確定するまで時間がかかり、被害を回復できるまで相当期間待つ必要がある場合もありえます。
①自分が被害にあった事件で給付手続きが行われているか確認
詐欺の被害者は、自分が被害に遭った事件で給付手続きが行われていないかチェックすることができます。
給付手続きは、事件を担当した検察官が行うことになるため、既に被害届などを提出して捜査機関に被害者であると把握されている方の場合には、個々の被害者に直接連絡がいくことになります。
また支給手続きが開始している事件については検察庁のホームページに一覧が掲載されているため、ウェブサイトを閲覧することで自分の事件が支給手続きの対象となっているか否かを確認することができます。
②支給金受け取り申請を行い支給額を受け取る
支給手続きが開始した場合には、被害者は一定期間中に申請書を提出する必要があります。検察庁の窓口に持参する方法でも、郵送で提出する方法でも申請が可能です。
申請書の雛型については法務省のホームページからダウンロードして記入することができます。
申請書には、氏名・住所、被害状況・被害金額、返金先口座などの必要事項を記載して、被害額がわかる資料のコピーや身分証明書のコピーを添付して提出する必要があります。
「消費者団体訴訟制度」なら消費者団体が訴訟を代行してくれる
「消費者団体訴訟制度」とは、国によって指定された団体が、被害者のかわりに不当な契約や勧誘の差し止めや損害賠償請求をしてくれるという制度です。
基本的には、被害者の消費者自身が加害者の業者を相手取って何らかの訴えを提起しなければ被害回復を実現することはできません。しかし事業者は個人とは異なり専門的な情報を膨大に所有しており、交渉力にも差があります。
さらに個人が訴訟を提起するには弁護士に依頼する必要があり、裁判手続には長い時間と手間をかけなければならないため、回復金額が少額の場合には費用倒れになってしまう可能性もあります。
このような消費者トラブルで被害者が泣き寝入りせずに適切・迅速に被害を回復できるように消費者団体訴訟制度が創設されたのです。
この制度を利用すれば、被害者は消費者団体に対して情報提供をすればよく、弁護士に事件を依頼したり各種複雑な手続きを自分で行う必要はありません。
①情報や証拠を提供して団体に相談する
集団訴訟による損害賠償請求については、「適格消費者団体」のみが提起することができます。現在は4団体が国から適格消費者団体として認められているため、ご自身が居住している場所の最寄りの消費者団体に被害を報告してください。
全国に存在している特定適格消費者団体には以下のような組織があります。
・特定非営利活動法人消費者機構日本
・特定非営利活動法人消費者支援機構関西
・特定非営利活動法人埼玉諸消費者被害をなくす会
・特定非営利活動法人消費者支援ネット北海道
以上のような適格消費者団体から対象となる消費者へ情報提供を行っていますので、対象となる消費者は消費者団体に情報提供・相談したうえで、依頼(授権)することになります。
②団体からの連絡を待ち返金手続きを始める
被害者から報告された情報をもとに、各消費者団体は、訴訟等を提起するか否かを判断することになります。
適格消費者団体が集団訴訟を提起するためには、少なくとも被害者が数十人いて、被害者が全員同じ原因で被害を受けており、各被害者が本当に被害を受けたかどうかを明確に判断できるという条件が必要です。
集団訴訟を起こしたとしても事業者側に十分な資力がなく返金の可能性がない場合には、手続きの負担だけで被害回復が図れないことから、訴訟提起をしないと判断される可能性もあります。
消費者団体が訴訟提起した場合には一段目の手続として共通争点に関する審理が行われ、勝訴判決を得た場合には二段階目の手続きに移行します。
二段階目の手続きでは個別の争点に関する審理が行われ、手続きの加入のための通知・公告が行われ、消費者が手続きに加入します。
消費者団体は、請求権のある消費者に対して相当な方法で個別に通知を行うとおもに、インターネット等を利用して周知します。
そのうえで消費者団体が個々の消費者の請求権をまとめて届け出て、事業者が事実について認否・消費者団体の異議の申し出の有無を確認します。事業者が事実を認め、又は期間内に認否をしない場合には消費者の請求権は届出の内容で確定します。
そして裁判所は簡易迅速に多数の消費者の請求権について簡易な手続きで審理・判断することができます(簡易確定決定)。
ただし、この簡易確定決定に異議がある場合には通常の訴訟手続きに移行し判決が出されることになります。
以上のように受付期間中に手続きに参加することで、最終的にお金が戻ってくることになります。
銀行振込で詐欺にあったら気をつけたい3つのこと

銀行振り込みを利用した手口で、現金を騙し取られた場合、被害者はどのようなことに注意して手続きを進めていく必要があるのでしょうか。ここでは詐欺の被害者が陥りがちな3つの落とし穴について解説していきます。
自分だけで解決しようとしないこと
詐欺の被害に遭った被害者の多くは自分だけで解決しようとしがちです。
なぜなら現金を騙し取られたということが周囲に知れてしまうと、「自分が迂闊だった」とか「世間知らずだった」などと批判されてしまうのではないか、と不安になってしまうからです。
しかし、自分だけで解決しようとする多くの方が、被害回復を諦めて泣き寝入りしているという実情もあります。
そこで、詐欺被害に遭って困っている方は、法律の専門家である弁護士を頼ってください。複数ある選択肢の中から依頼者の利益が最も大きくなる手続きを選択し、相手方との交渉や複雑な手続き・書面作成についても任せてしまうことが可能です。
また、弁護士は依頼者に対して守秘義務を負っていますので、弁護士に依頼することで第三者に詐欺被害に遭った事実が広がるということはありません。
被害届が受理されたら取り下げないこと
警察に被害届が受理された場合は、絶対に取り下げてはいけません。
被害届については再度提出することができます。しかし一度取り下げた被害届を警察が再度受理して捜査を進めてくれるとは限りません。加害者が判明している場合には、相手方から「反省している」「絶対に被害弁償する」と言われたとして取下げに応じる義務はありません。
重要なことは被害者が受けた被害を回復できることです。そのためにも徹底的に捜査機関に捜査をしてもらい事実を明らかにしてもらうことが非常に重要になります。
詐欺被害者を狙った二次被害に遭わないよう気をつけること
詐欺被害者をターゲットにした、新たな詐欺の被害に遭わないようにする必要があります。詐欺の二次被害とは、被害者が詐欺被害に遭ったことを知っている詐欺師が、そのことを利用してさらに財産を騙し取ろうと接触してくるケースも報告されています。
具体的な手口としては、警察官や弁護士を装う人物から電話や通知が来て、騙し取られた現金を取り戻すことができるという趣旨で、手数料や保証金などありとあらゆる言い分で被害者に金銭を支払わそうとするものです。
詐欺被害に遭った被害者の方は、経済的・精神的なショックを受けているケースが多く、そのような方をさらに騙すことは簡単であると考えている卑劣な詐欺師も多く存在しています。そのため詐欺の被害者は必ず相手の身分を確認するように心がけましょう。
警察官であれば身分証を携帯しており、所属している警察署に確認することができます。また弁護士であれば弁護士バッジや身分証、登録番号があり、所属弁護士会に問い合わせをすれば確認することができます。
まとめ|銀行振込で詐欺にあったら金融機関や弁護士に相談して

この記事では、銀行振り込みの手口で詐欺に遭った場合、被害者が利用することができる法律や制度について解説してきました。まず金融機関と警察に相談することが重要です。
ここで紹介した法律や制度以外にも被害者が被害回復するためにとれる手段は存在しています。そのため、詐欺師にお金を騙し取られて困ってるという方は、是非詐欺事件の解決に精通した弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士に依頼することで、あなたのケースでベストな解決策や対処法について、適切にアドバイス・サポートしてもらうことが期待できます。